6月1日 大阪市西成区にあるNPO「こどもの里」を柳田議員・竹村議員と一緒に視察し、荘保共子理事長より、様々な取組についてお話を聞くことが出来ました。概要と私の所感は次の通りです。
1. 「こどもの里」の行っている事業
(1)大阪市留守家庭児童対策事業(学童保育)
(2)大阪市地域子育て支援拠点事業(つどいの広場)
(3)小規模住居型児童養育事業(ファミリーホーム)
(4)児童自立生活援助事業(自立援助ホーム)
(5)自主事業(緊急一時保護・宿泊所、エンパワメント事業・訪問サポート事業、中高生・障がい児居場所事業等)
2. こどもの里の経緯
1977年、釜ヶ崎の子どもたちに、健全で自由な遊び場提供したいとの思いから、子どもたちの遊び場として始まったとのことでした。
集まってきた子どもたちの姿から見えてきたのは、子どもたちの背景にある生活の不安定さ、すなわち、これは子どもの親が抱える困難さでもあったとのことです。このような子どもたちに必要だったことは、基本的な生活習慣を身につけることによる子どもの生活権の保障、住まいの確保など子どもが生きていくことへの手助けだったと言います。やがて、借金や家庭内暴力から逃げてきた行き場のない子どもや親の緊急避難場所となったそうです。
1980年、現在の場所に「こどもの里」が開設され、子どもたちが思い切り体を動かせる広いホール、料理や食事が一緒にできる食堂、勉強のできる図書室、そして緊急避難、一時宿泊のための部屋など、子どもたちが安心して遊べる場の提供と生活相談を中心に、活動を続けてきたとのことでした。
3. 釜ヶ崎地区とは
釜ヶ崎地区は、路上生活者や日雇い労働者が集まる「ドヤ街」で、現在は「あいりん地区」という愛称で呼ばれています。私も実態を見ましたが、ビジネスホテルやウィークリーマンションなど、いわゆる簡易宿泊施設も多くあり、1泊1,500円、日払い、週払いなど、労働形態に合わせた施設となっていました。また、路上生活者も本当に多い地区なんだと実感しました。しかし話をきくと、人数はピーク時の1/3、高齢化も進んでいるとのことでした。この地区にある自動販売機の中には、缶コーヒーが50円だったり、賞味期限切れと表示された紅茶が30円だったり、路上屋台のお好み焼き(豚玉)が100円だったり、その物価にも驚かされました。
4. こどもの里の信念
荘保理事長から「こどもの里」には、2つの大きな信念があると聞きました。
1つは、子どもの最善の利益を考えること。安心して遊べる場・生活の場と相談を中心に、常に子ども立場に立ち、子どもの権利を守り、子どものニーズに応えることをモットーにすること。
2つは、子どもの自尊心を守り育てること。自分に与えられた境遇の中で、子ども(人)の持つ「力」を発揮・駆使して、たくましく生きている素晴らしい子どもたちを、社会の偏見や蔑視から守り、自信を持って自分の人生を選び進めるよう支援することをモットーにすること。この2つの信念を持ち、活動しているとのことでした。
5. こどもの里が大切にしていること
こどもの里は、次の点を大切にしていることのことです。
(1)必要とする人は、誰でも利用できる場であること(安心な場)
(2)遊びの場、休憩の場であること(愛されているという実感があり、失敗しても大丈夫な自由な場)
(3)学習の場であること(生きているだけで素晴らしい、自信と自己尊重な場)
(4)利用する子どもたちや保護者の抱える様々な問題を受入れられる場であること(聴いて、受け止めてくれる人がいる場)
(5)より弱い立場の友達と社会の谷間におかれている友達と共に助け合って生きていける場であること(必要な生活の場、仕事の場等、新しい福祉地域文化を創造する場)
※荘保理事長から聞いた話は、こどもの里での体験や実情、社会的課題など、考えさせられることばかりでした。特に心に残ったものを記載します。
6. 子どものSOS
問題行動を起こす子どもは、「問題児」ではなく、「問題を抱えて困っている子」である。子どもの「非行」は、人権侵害を受けた子どものSOSだという。居場所がないから「安心なところがほしい」「聴いてもらいたい」「話したい」「一人でいたくない」「抱きしめてほしい」そこには、寄りそう大人や友達が必要なのです。
虐待などにあい、精神的に追い込まれたら、生きのびるためにシンナーや覚せい剤を手にする。しかし、その行動は、生きるためのある意味、正常な行動なのだともいう。だから、その子どもたちが「非行」をしていると見るのではなく、必ず、虐待などの背景があると見なければならない。
荘保さんは、過去に、こどもの里に来た、派手な格好をしている女の子を家に帰した。何度も子どもの里に来ていたその子は、ばったりと来なくなり、数年後に顔を出したときに、その時の彼女の境遇を聞いたという。それは、父親からの性的虐待であった。そんな女の子を私は家に帰してしまっていた。今でも反省していると荘保さんは話してくれました。
性的虐待は、父親、兄弟、おじなどが多く、「言っちゃダメ」と言われ、誰にも相談しなかったが67.5%を占める。その後にPTSD(心的外傷後ストレス障害)を発症し、大人になっても、その瞬間に逆戻りしてしまうケースがあるという。
また、こんな話もしてくれました。日雇労働で働く父親が、仕事にあぶれると、お金が入らないことを子どもたちは知っている。子どもの体操服が破れ、先生から新しいものを持ってきなさいといわれる。しかし、お金の入らない親に「体操服を買ってほしい」と言えば、「怒られる・心配をかける」と子どもなりに考える。そうすると、子どもは「体操服を忘れた」と体育の授業を休むことを繰り返す。いい加減に持ってこないと「みんなの前で。。。」と先生に言われると、今度は学校を休む。育ち盛りの子どもが、ご飯を食べずに「お腹が痛い」といってご飯を食べない場合にも同じような背景が考えられるという。子どもたちは、色々な形でSOSのサインを出しているのです。そこに気が付いてあげられる大人や年上の子どもたちが「こどもの里」には、いるのだと思います。子どもたちが、「困ったらこどもの里に行けばいい。困ってなくても楽しいからこどもの里に行こう」と思うような施設なのだと思いました。
7. 児童相談所のあり方
荘保さんは、困難を抱えている子どもを、その地域から離して一時保護する児童相談所のあり方に疑問をもっていました。児童相談所に一時保護された子どもは、「見捨てられた」と思うという。子どもの最善の利益を考えた時、今の児童相談所のあり方ではなく、地域の中で一時保護することが、子どもにとって「地域の中で生きられること」が保障される。大人になったときに、扱いの違いの影響は大きいという。
8. 体験を劇で報告
日雇い労働者が集まるあいりん地区。路上生活者も多い。子どもたちは、「汚い、怖い、怠け者、役立たず」と差別・偏見の目で見ていたそうです。しかし、2015年度で30回目を迎えた「子ども夜まわり」で、その偏見はなくなります。寒さの厳しい冬に、「こどもの里」の子どもたちが、おにぎりと味噌汁をつくり、それを路上生活者へ届けます。その時に、声を掛けてコミュニケーションをとるのです。子どもたちは、素直に思った疑問をぶつけます。「なんで、野宿なの?なんで、働かないの?」などなど。そこで、路上生活者が、夜働いている事、仕事の内容、生活の中でなくてはならない仕事をしていることを知るのです。
そして、その仕事も体験します。その仕事の大変さを知ることで、このおっちゃんは凄いとなる。そして、なんでこんなに大変で、生活にはかかせない仕事なのに野宿生活なのか?この体験を劇にして、仲間の前で発表します。
同じように、沖縄の「チビチリガマ」での集団自決について、平和学習をしたことや、他で学習したことも劇で発表していました。劇で発表するには、様々な準備もあり、皆で協力して発表することは、学習したことの復習にもなるし、コミュニケーション能力の形成にもつながると思います。大変素晴らしい取り組みだと感じました。
9. 三角公園での運動会
あいりん地区にある「三角公園」で行う運動会では、路上生活者の皆さんも、子どもたちと一緒に参加しています。それこそ、一輪車にスコップで砂を入れて競争するなど、日雇い労働者の仕事が競技になっていたりして、上手く砂が入れられない子どもを、おっちゃんがフォローします。「子ども夜まわり」で培われた関係が、ここでも活きているように感じます。子どもたちとおっちゃんたちの信頼関係と言えます。
10. 社会の仕組み
今回視察した地区は、日雇い労働者の多い地区であり、日雇い労働者は、今でいう非正規労働者です。荘保さんいわく、子どもの貧困は、リーマンショック以降から貧困率が上がったと言われているが、実は、労働者派遣法が改正され、対象業務が規制緩和で拡大されてからだという。生活保護世帯の推移をグラフで見ても明らかである。すなわち、子どもの貧困は、自己責任ではなく、社会構造に問題があるという。正規労働者と非正規労働者の割合を社会構造として改善していかない限り、子どもの貧困問題は根本的な解決にはならないと私も思います。
根本的に解決できないとしても、現に貧困となっていることが原因で、問題を抱えている子どもへの支援は必要なのです。今回視察した、こどもの里のような支援のあり方を、藤沢に置き換えた時に、議員として何をするべきなのか、考えなければなりません。根本的な解決は、国の政治の役割です。規制緩和がどこを見て行われたのか、国民一人一人が考えなければならないと私は思います。
11. 最後に
「こどもの里」では、私たちが荘保さんの話を聞いている時にも、子どもたちが少しずつ集まり、遊んでいました。ドキュメンタリーの概要版も見ましたが、小さい子どもは、お兄さん、お姉さんの役割を果たす、高学年の子どもたちが面倒を見ていました。そうやって、自然に愛される仲間(家族)になり、困難は解消していくのだと思いました。荘保さんは、ファミリーホームで生活している子どもの里親にもなっているとのことでした。長い間、一緒にいても、子どもたちの情緒の変化に辛い時もあるそうです。それこそ50年近くに渡り、子どもたちの最善の利益(人権)を考え、実践している荘保理事長の話を聞けたことは、自分にとっても大変貴重であり、意義のある視察でありました。
以上、報告とします。