8月5日、北海道栗山町の社会福祉協議会が実施している「ケアラー支援事業」を視察してきました。内容の抜粋は次の通りです。
1. 介護保険事業からの撤退
栗山町の社会福祉協議会は、民間事業者が実施している、居宅介護支援・訪問介護事業からの撤退を平成21年9月から検討し、22年3月に撤退したとのことでした。
2. ケアラー実態調査 ※ケアラーとは、「介護」「看護」「療育」「世話」「心や身体に不調のある家族への気遣い」など、ケアの必要な家族や近親者・友人・知人などを無償でケアしている方です。
平成22年9月にケアラーの事態調査を実施したところ、全世帯の約15%(960世帯)がケアラー世帯で、そのケアラーの約60%が、病気などの体調不良を訴えていることが分かったそうです。
この調査で、ケアラーの多くが日常生活や心身についての不安を抱え、地域とも疎遠になり、将来的に心身の疾病や介護ハラスメントなどにつながる可能性があることが分かったそうです。これらは画一化した介護保険サービスでは解消できない問題です。
3. 命のバトン(平成22年11月~)
「命のバトン」は、緊急連絡先、かかりつけの医療機関などの情報を記入した安心カードを入れた容器で、冷蔵庫に保管して緊急時に対応するものです。申請と配布は、自治会・町内会にお願いし、日常的に社協や行政、民生委員や地域の人が見守ることで、安心した生活を送ってもらうようにしているとのことでした。現在、800世帯に配布。
4. 在宅サポーター(平成23年7月~)
「命のバトン」の配布世帯を定期的に訪問するために「在宅サポーター」を2名採用し、各世帯を訪問し、話し相手や悩みごとの相談に当たっています。在宅サポーターが得た情報は、すぐに町内会長や民生委員、地域包括支援センターなどに提供され、地域サポートの基盤となっているとのことです。
5. 宅配電話帳(平成23年11月~)
介護などにより「買い物に行けない」「通院が大変」など、日常生活に不便や不安を感じている世帯への支援として、商店などに呼び掛けて、宅配などのアイデアをこらした「宅配電話帳」を作成したとのことです。宅配電話帳といあツールにより、商店など福祉施策とは無縁ともいえる町民パワーが動き出し、福祉のお金が地域で循環するきっかけとなったとのことでした。
※この宅配に対して、市や社協からの補助などはないとのことでした。
6. ケアラー手帳配布(平成24年3月~)
ケアラーと地域をつなぐツールとして「ケアラー手帳」を作成し、配布をしたとのことでした。内容は、こんな人がケアラーです/ケアラーへのアドバイス/介護体験の事例紹介/相談窓口の紹介/健康のチェック/健康診断の管理/知っておきたい介護技術の紹介/気持ちが沈む日に、ケアラーのあなたへ(アドバイス)/気持ち(いらだちや愚痴)を書くメモ欄/訪問者のメモ欄 です。
7. まちなかケアラーズカフェ「サンタの微笑」(平成24年11月~)
「1週間以上、人と話をしていない」「介護の合間に息抜きができる場所があったら」との声が在宅サポーターに寄せられたことから、支える側も支えられる側も自由に集まり、交流できる地域のたまり場を開設したとのことでした。社協の公益事業として位置付けられているとのことでした。
8. ケアラーサポーター養成研修(平成25年1月・10月実施)
平成23年7月から、在宅サポーター2名を採用して、ケアラー世帯を訪問してきました、訪問できる世帯も限られるため、地域の新しいケアラー支援の担い手として「ケアラーサポーター」の養成研修を実施したとのことでした。研修は、地域福祉、臨床医学(認知症)、臨床心理学の知識やピアサポート、アセスメント、地域支援の実践などのカリキュラムで実施され、45名の町民(第1回目)が受講し、担い手としての訪問(2名1組)がスタート(平成27年3月~)しているとのことでした。
9. ケアラーアセスメント(平成26年4月~)
介護保険では、要介護者の状況を「介護度」で判断していますが、介護するケアラーにはありません。ケアラーの体調や心の不安が介護に及ぼす影響が大きく、全国で悲しい事件や事故が起きています。そこで、ケアラーの体調などの変化を把握して、サービスの提供などにつなげようと社協独自にケアラーアセスメントを実施し、その状況を「ケアラー度」で可視化しているとのことでした。ケアラー度は5段階で、状況は次の通りです。
(1)ケアラー度1 イキイキ (^.^)
心身ともに健康/家族・地域との関係が良好/介護の負担や悩みもない
(2)ケアラー度2 ニコニコ (^-^;
少し疲れ気味である/家族・地域の協力あり/自分の時間を持てる
(3)ケアラー度3 ソロソロ (-_-;)
持病を抱えている/家族・地域との関係が疎遠/介護技術に不安がある/介護サービスを知らない
(4)ケアラー度4 オヤオヤ (+_+)
体調が思わしくない/家族・地域など相談相手がいなく一人で抱え込む/食事の支度、掃除、介護ができていない
(5)ケアラー度5 ヘトヘト (>_<)
体調が悪い/家族との確執・地域とのつながりがない/サービスを活用しない/要介護者に手をあげそう
このケアラーアセスメントをケアラー本人と訪問者の両方でチェックし、ケアラーの体調などの変化を把握、ケアマネの資格をもつ「在宅サービスコーディネーター」がアセスメントシートを作成し、地域包括支援センターに情報の提供を行っているとのことでした。
10. 見守り介護ロボット(平成27年2月~)
要介護者の様子が可視化できる見守り介護ロボット「ケアロボ」の導入については、経済産業省の実証実験に参画し、現在では6台のロボットを貸出しているとのことでした。「ケアロボ」には、赤外線などの各種センサーやカメラ、通信機能が搭載されており、自宅で過ごしている要介護者の様子が画像として、外出中のケアラーの携帯電話に送信されるもので、ケアラーの誰もが抱える、要介護者と離れている間の不安・気がかりからのストレスが解消されることが分かったとのことでした。
※「ケアロボ」の効果が実証されたので、実験後の活用状況を聞いてみましたが、予想外にニーズがないとのことでした。実験後も実験に使用した6台の「ケアロボ」を町民に貸し出しているが、6台で間に合っているとのことでした。少し不思議な気がしました。
11. これからの挑戦
ケアラーの最も多いニーズは、24時間いつでも相談や支援を受けられるというものです。現在は、ケアラー自身の体調が悪い時、急な冠婚葬祭、心身をリフレッシュしたいときなどの受け皿がなく、ケアラーの犠牲の上に家族介護が成り立っています。介護の社会化をめざすには、何よりも24時間の包括ケアシステムの構築が急務です。その点で、既成のサービスに加え、情報システムやロボットの活用、更に町民が参加する新しいケアラー支援の体制づくりに挑戦することが求められているとのことでした。
12. 藤沢市での取組み
今回の視察で感じたこととして、一つは藤沢市の栗山町と規模や環境は違うにしても、同様なケアラー問題を抱えていることは間違いありません。ケアラーの実態調査、そしてケアラーへの支援の仕組みを考える必要があります。栗山町社協の方も、ケアラー支援を地域包括ケアシステムの介護予防・日常生活支援総合事業の要として位置付けることが必要と言っておりました。現在の藤沢市の取組みの中に、ケアラー支援という視点は、あまりありませんので、今回の視察を参考にして、藤沢市型地域包括ケアシステムの中に、ケアラー支援の視点が組み込まれるように、会派として取り組んでいこうと思います。
以上、視察の報告とします。