11月8日~9日、藤沢市議会議会運営委員会で、宮崎県日向市と延岡市を行政視察しました。私は、佐賀議長ととともに副議長の立場で参加しました。視察概要は次の通りです。
【11月8日】日向市
1. 議会運営委員会における陳情処理手続きについて
藤沢市議会では、手続きに不備がなければ、請願・陳情は全て(市外からの郵送は除く)、委員会に付託して審査していますが、日向市議会では、審査するかどうかを議会運営委員会で協議して決めているとのことで、その内容を視察しました。
(1)審査をせず議員への配布のみとなる場合
➀基本的人権を否定する等、違法又は明らかに公序良俗に反する内容のもの。
➁判決の変更を求めるものや、裁判で係争中の事件に干渉する等、司法権の独立を侵すおそれのあるもの。
➂個人、団体等を誹謗中傷し、その者の名誉を棄損又は信用失墜のおそれがあるもの。
➃公益上の必要がなく、単に個人の秘密を暴露するもの。
➄市の事務に関係しない事項を願意とするもの。(ただし、意見書提出を願意とするものは除く。)
➅すでに願意が達成されているもの、もしくは実現の見通しが明らかなもの。
➆明らかに実現性のないもの。
➇1年以内に議決されたものと同趣旨のもの。
➈市の職員の身分に関し、懲戒、分限等、個別の処分を求めるもの。
➉趣旨、理由等が明確に記載されていないもの。
⑪前各号のほか、議会が関与することが適当でないと認められるもの。
※上記のいずれかに該当し、請願と同様の取扱いをしないと決定したものについては、次のように取り扱う。
➀議員及び当局への配布にとどめる。ただし、議長が配布することが適当でないと認めるものは配布しない。
➁その理由を付して、陳情者に通知する。(陳情者が2名以上の場合は、その代表者に通知する。)
(2)請願・陳情の採択の種類
藤沢市議会の場合、請願は採択・不採択、陳情は趣旨了承・趣旨不了承となりますが、日向市議会の場合は、ともに採択・趣旨採択・不採択の3種類とのことで、趣旨採択とは、言っている(主張)ことは理解できるが、実現は難しいというケースなどで、主旨採択という扱いがあるとのことでした。
(3)視察時における主な質疑
・取扱いの判断について、例えば教育課程に関するものは議会に権限がないが、そのようなケースはあったか?⇒判断しかねるものについては、議会運営委員会にあげて、取扱いを決めてもらう。➁と➇の事例はある。
・委員会への付託先について、藤沢市議会では議会事務局で決めて、議会運営委員会で確認しているが、日向市議会では、本会議前の議会運営委員会で決めているのか?⇒議会運営委員会で付託先を議論している。議会事務局には、審査しない➀から⑪に該当するか確認してもらっている。
・審議結果が3通りあるとのことだが、趣旨採択に対する陳情者の反応は?⇒陳情者からじかに伝わっていないが、一定理解されていると思う。市道認定の陳情が、基準に合わなかったため、趣旨採択となり継続審査となった。継続審査の場合、次の議会までに議論して結論を得るとしているが、それでも結論が出ない場合は年度内に処理するとしている。
・取扱いについて、最終的には議会運営委員会で多数決で決めるのか?⇒委員会付託で落ち着いている。
・陳情で➀~⑪に当てはまった件数は?⇒昨年度は6件中、➁と➇のそれぞれ1件。
・趣旨採択の採決の方法は?⇒動議を出してもらい採決を取る。これまで、反対となったことはない。
(4)所感
今回の視察で、陳情を審査するか否かを議会運営委員会で協議している実態を知ることができました。藤沢市議会でも、手続きが整っていれば、全ての陳情を審査していますが、市議会が判断するにそぐわない陳情もあります。その時は、討論の中で触れて、趣旨不了承とするケースが多く見受けられます。日向市議会のように議会運営委員会で、➀~⑪に当てはまる場合は、審査しないとしており、藤沢市議会においても、市議会が関わることが適当でない事項を議論して、審査するかどうかを決めることについて、検討する必要もあるのではと感じました。
2. 議場及びインターネット中継における字幕表示について
日向市議会では、議場のモニターやインターネット中継において、UDトークという文字通訳システムアプリを導入して、字幕表示がされています。藤沢市議会でも、過去に字幕表示の議論がされていましたが、変換の精度が低く、導入に至らなかったことも踏まえて、視察をしました。
(1)UDトーク導入の経緯
・令和2年5月の議会改革特別委員会において、市民参画の機会の充実について検討が始まり、「手話通訳者の配置」で話が進んだが、手話通訳者の人的確保が困難で、検討した結果、字幕表示による方法を検討することとなった。
・令和2年9月に議会事務局にて、文字通訳システムアプリの情報を収集し、事前にテスト等反訳内容の確認を行った。
・令和2年9月から12月、議会改革特別委員会にて、4つの文字通訳システムアプリの内容や使用料等を比較審査した結果、現在のUDトークを導入することとなった。その理由としては、東京都の知事記者会見、佐賀県唐津市議会での導入、使用料(ランニングコスト)が他のシステムより低額であったことが主な要因。
・令和2年12月、議会事務局において、スマホやタブレットで、UDトーク(無料版)でテスト表示、反訳のテストを開始。
・令和3年3月、令和2年度3月補正予算を計上。
・令和3年4月、UDトーク導入のため、議場システムの改修を行った。※システム改修費803,000円、アプリ使用料(初期費用込)371,800円。
・令和3年6月、本会議での運用開始。
(2)視察時での字幕表示
実際にマイクを通して、字幕表示を体験しましたが、早くしゃべっても、かなり正確に反訳がされました。また、本会議中の反訳で、間違っているところは、議会事務局職員が修正しているとのことでした。
(3)視察時における主な質疑
・他市の導入実績について、その後、増えているのか?⇒UDトークのホームページでは、事例として25自治体が導入している。公表していない自治体もあると思われる。
・導入に際しての苦労は?⇒使い勝手について、誤訳が多く、単語登録をしたが、そのことで新たな誤訳が生じた。機器の十分なテストが不足していて、本会議中に画像が停止したこともあった。反訳の修正に職員2人が対応しているが、反訳の流れが速いので、早い入力が必要。悪い言葉で訳される場合が大変で、中継されているので心配もしたが、今のところ問題は起きていない。
・ディープラーニング機能のより、当初よりスムーズに反訳されているのか?⇒かなり精度が上がっている。
・市民の反応は?⇒議会傍聴者からは良く理解できるとのこと。一方、記者発表の方法に問題があり、手話に代わるものではないと手話通訳団体から叱られた。
・手話通訳とのコスト比較は?⇒コスト比較は十分にしていないが、手話通訳者の確保がネックだった。令和4年度までは議会の予算だったが、市の会議等でも使用されているため、令和5年度からは市長部局の予算となる。
(4)所感
今回の視察で、実際マイクを通して字幕表示を見ましたが、かなり精度が高いと思いました。ディープラーニングにより、継続すればより精度が上がる仕組みとなっており、今後は、職員による修正に伴う負担も軽減されると考えます。日向市議会では、本会議のみインターネット中継がされていると聞きましたが、藤沢市議会では、常任委員会や予算・決算の委員会もインターネット中継されています。今後、藤沢市議会でも、聴覚障害者に対して開かれた議会としていくためにも、検討していく必要もあると感じました。
【11月9日】延岡市
1. 政策提言議員協議会について
延岡市議会では、政策提言議員協議会を設置して、市に対して政策提言をしており、その提言に対して検証をして、政策の実現を評価しています。藤沢市議会では、議会改革推進会議において、政策提言、条例提案について、その仕組みづくりを議論していますが、今回は、政策提言について視察をしました。
(1)政策提言を行うことに至った経緯
➀正副議長・会派代表者・市長・副市長による政策意見交換会の実施(平成17年度~19年度)
各政党や会派で市長に対して政策提言がされていたが、内容が多岐に渡り、提言後のフォロー体制もなかったことから、議会の総意として項目を絞った提言を行うため、政策意見交換会を実施することとなった。
➁政策提言議員協議会の設立(平成20年度)
平成19年5月に設置した「議会改革特別委員会」において、政策形成機能の強化について検討がされた結果、これまでの「政策意見交換会」の取り組みを充実・強化するために設立された。構成は、正副議長・会派代表者。※市長・副市長・教育長は必要に応じて出席できる。
➂政策提言議員協議会の運営等の一部見直し(平成23年度)
各会派から幹事となる委員を各1名ずつ増員。多くの議員が参画し、より充実した提言が出来るようにした。テーマ設定方法について、会派を通じてテーマ案を出してもらい、それを幹事会で取りまとめて、最終的には協議会全体で協議してテーマを決定する。
(2)具体的検討方法等
【提言内容の前提となる市民からの意見・要望等の集約方法】※議会として行う主なもの
➀議会活動報告(年1回)※毎年5-6地区で開催し、2年かけて市内全11地区で実施
➁延岡市区長連絡協議会との意見交換会(年1回)
正副議長・議会選出監査委員・常任委員会正副委員長・区長連絡協議会(自治会正副会長、理事など)での意見交換会。
➂若年層等の意見交換会(年1回)
市内唯一の4年制大学(九州保健福祉大学)及び市内高校(毎年1校)を議員が訪問し、議員と学生・生徒で班編成をして意見交換会を実施。
➃常任委員会のシティミーティング(関係団体との意見交換)
過去の開催例としては、保育協議会、幼稚園協議会、文化協会、建設業協会等。
➄市のホームページ等の「市民の声」に寄せられた要望等の情報共有
【政策提言議員協議会における提言テーマの決定方法】
➀各会派において、当該年度の提言テーマ案を協議。
➁幹事会で、当該年度の提言項目数(2項目程度)を確認した上で、各幹事が自会派のテーマ案を提示し、趣旨や背景等を説明。
➂幹事会での提案内容を各会派に持ち帰り、会派内で他会派からの提案内容も含めたテーマ案の選定を再度行う。
➃再度、会派での検討結果を持ち寄り、テーマ案の絞り込みを行う。2項目になるまで、繰り返す。
➄幹事会で決定したテーマ案を全体会に諮り正式に決定する。
➅決定したテーマをもとに、幹事会において具体的な提言内容の協議を開始する。
【幹事会における提言内容の協議方法】
➀提言テーマに関する市当局への調査
➁提言テーマに関する各項目(大・中・小項目)の協議、決定。
➂提言書の内容(文書)の協議、決定。
(3)政策提言後の検証
平成30年度には、当該任期中に行った提言(平成27年度~29年度)の取組状況について協議会として検証を行った。平成30年度~令和3年度の検証は今年度に行う予定。
(4)今後の課題及びあり方
➀政策提言テーマの決定方法
各会派からの自由な内容の提案となっているが、幹事会における決定までに、会派持ち帰りを繰り返すために時間がかかる。また、各常任委員会がテーマを決めて所管事務調査をしているので、その調査内容とリンクして協議会運営がされれば、より効率的な活動となる。
➁提言内容の検討スケジュール及び提言時期
年度末の1回の提言に向けて協議・検討を行っているが、テーマによっては、早急又は時間をかけて検討した方が良いものもあるので、提言時期に捉われない(年1回提言にこだわらない)運営をすることで、より効果的な時期や内容での提言が出来る。
(5)視察時における主な質疑
・市民への公表の仕方は?⇒地元に夕刊紙があり、取り上げてもらうほか、市のホームページで公開している。
・会議体の議論の中継はしているか?⇒していない。
・提案の採用について、大きい会派の提案が通りやすい、又は順番などのルールはあるか?⇒特にない。出てきた提案を議論している。
・11地区での議会活動報告会について、全議員が出席するのか?⇒議長以外は3班に分かれて2カ所ずつまわる。自分の地区には出席しないように調整している。
・この取組のために議会事務局の体制は強化されたのか?⇒特にないが、平成20年度くらいに1人増員されている。
・提言内容に関することについて、一般質問や予算、決算での質問はタブーとなるのか?⇒終わっていればタブーとはならないが、当該年度は質問はされない。
・平成30年度に検証した事項について、それ以降は検証されないのか?⇒当該年度以降はやっていない。
・議員による条例提案の状況は?⇒条例提案までの検討はしていない。
・市当局が難しいとした体育館への空調整備は、どのような経緯で提言されたのか?⇒全国的に熱中症が問題となり、テーマとなったと想像する。利用者からも要望があったと記憶するが、コスト面でも困難として実施されていない。
・この制度について、市長はどう思っているのか?⇒是々非々の考えだが、提言されれば、前向きに対応している。
・一般質問が軽視されるのではないか?⇒そういう懸念があるため、2項目としている。
・幹事会と協議会の開催状況は?⇒昨年度は幹事会が8回、協議会が5回、一昨年度は、幹事会が10回、協議会が5回。
・市民からの日常的な陳情が提言に入っているものはあるか?⇒特に請願・陳情が提言に反映はされていない。そもそも、地区の課題が請願・陳情で出されることはなく、要望としてあげてもらっている。
(6)所感
藤沢市議会として、政策提言、条例の議員提案について、その仕組みを議会改革推進会議で議論していますが、政策提言について、大変参考となりました。議員が一般質問で提案・要望していますが、議会全体としての提案となれば、実現性が高まります。一議員が成果を求めるのではなく、議会全体として市民サービスの向上を考えることが重要と考えます。そのための仕組みづくりという観点で、延岡市議会の取組を参考にして、今後、議会改革推進会議において議論が進むことに期待します。
※以上、視察の報告とします。